露見

 人には誰しも秘密があるのだと思う。そうでなくとも、出来れば他の人に知られたくないことやもしもバレてしまったら恥ずかしいと感じるようなことがきっとある。例えば僕なら、朝はエミに起こされてばかりいることだろうか。だから合宿の時は色々と恥ずかしい思いをしたんだっけ。
 思考がぐるぐると空回りする。それは噛み合うことのない歯車が一つきり、無意味に回転を続けているよう。意味がないことを知っていても止められないそれは、僕の意志を半ば離れてしまっている。
「……アイチ」
「はいっ……」
 彼の呻くような声に返事をする僕の口の中は酷く乾いていた。今ならエジプトの砂漠にも負けないくらい──ああ、駄目だ。また思考がぐちゃぐちゃに散らかってしまっていると自覚する。逸れがちな思考はいっそ一種の現実逃避だったのかもしれない。
「櫂、くん……あの、それは」
「……隠し通せはしない、か」
 櫂くんの発した分かりやすく苦々しい声色は久しく聞いていない物だったように思う。改めてしっかりと整った顔立ちを見つめれば、苦虫を噛み潰したような表情という言葉がこれ以上ないほどに相応しいと思える顔だった。

「櫂くん、その……ほんとに……尻尾……?」
 何ひとつ変わらない眼前の状況に、理解する。
 僕はいま、櫂くんの抱える重大な秘密を知ってしまったのだ。
 

 
 ──櫂トシキはドラゴンらしい!

「櫂くん……まさか、櫂くんが本当にオーバーロードだったなんて。僕、僕──」
 そこまでかろうじて彼に告げて、それ以降の記憶がない。

あとがき
これではかなり短いので、続くかもしれません。